株式会社知久

チサンのチカラ

遊休農地を利用して企業が農業に参入できる制度「元気なはままつ農業特区(※)」。2005年3月にこの許可を受けたのが、持ち帰り弁当や惣菜の「知久屋」で知られる、株式会社知久。これまでもオーガニック野菜の使用や天然素材の調味料など、安心・安全・健康面への姿勢を全面に打ち出してきた知久に地元浜松で新たに展開する農業事業への参入の意図、そして今後の展開を聞いた。

大根現在知久では、湖東町、伊左地町、呉松町、和地町などに計7ヘクタールの農地を借り入れ、農業事業専門の社員、65歳以上が中心のパートを雇い、知久屋の商品で使用する野菜を栽培している。生産がはじまっているのは、大根、にんじん、ねぎ、ミニトマト、かぼちゃなど、季節や風土に合わせて約10種類。「もともと知久屋の惣菜などに使用している80%以上の野菜が契約農家から仕入れる低農薬、低化学肥料のものでした。体にやさしく、安全な食材というのは知久が一番こだわっているところです。そのこだわりをより追求していくため、そして『有機農作物』という言葉をより確かなものとして打ち出したいという気持ちから、農業事業への参入を決めました」。

農業特区の許可を受けたからと言って、すぐに野菜の生産に取りかかれたかと言うとそうではない。「最初の3年間は野菜作りというより、土作りでした。まず農地として使用できる土地かどうかをチェックして、そこがクリアになると今度は土地の整備をしなければならない。遊休農地と言っても、今まで野放しになっていたところが多く、野菜を作れるまでの畑にするには土地整備に時間と費用がかかります。特に当社は有機野菜にこだわっていたので、土作りにも真剣に取り組まなければいけませんでした」。

かぼちゃ2005年の参入から約5年。知久屋で売られている「切り干し大根」の大根は、かなりの割合を自社の畑でまかなえるようになってきている。そんな生産量の向上とともに、農業参入によって変わってきた部分があるという。それは社員の意識だ。「農業への理解に対して、社員一人ひとりの意識が確実に高まっているのを感じます。地域の農業事情や衰退への危惧などを感じることで『企業として何ができるのか?』を考えるようになってきましたね」。さらに興味深いのは、農業に参入したことで、全国の新卒大学生から入社希望の問い合わせが増えたということだ。「若者たちが意外と農業への関心が高いということに驚きました。これは非常に楽しみなことですよね。そういった若者たちのためにも、当社が新しい農業のモデルケースを作っていけたらと思っています」。

農業特区制度というのは、農業の活性化、地産地消の推進、新たな農業の担い手の育成などを活性化させるための制度だ。そんななかで「企業に参入させる」メリットというのは、企業ノウハウを活かした新しい農業形態を生み出す可能性を見越したものだ。知久が考える将来への農業ビジョンからも、新しい農業形態への期待感を持たせてくれる。「現在進んでいるのが、社会福祉法人との提携事業です。例えば身障者の方に当社の工場で畑で採れた野菜の皮むきなどをやっていただいています。今後は畑の整備や農作業などにも仕事の幅を広げていくほか、身障者の方が手作りする工芸品の販売など、さらに活動内容を広げていけたらと思っています。それと同時に、地元の人たちに向けた市民農園や直売所の整備も進めていきたいですね。農業を接点にして、企業と福祉、市民が繋がり、地産地消や健康、地球環境のことを考える。将来的にはこのような地域性を創造できたらと思っています」。

(※)元気なはままつ農業特区……国が認定する構造改革特区として浜松市が導入した農業特区制度