環境意識からスタートさせる企業の環境活動・CSR活動



CSRという言葉は一般的に「企業の社会的責任」と訳されるが、これは環境への配慮をはじめ、企業コンプライアンス(※1)の徹底、ステークホルダー(※2)への対応や説明責任、社会や地域への貢献事業など、幅広い意味合いを孕んでいる。 そんな中、現在、企業に取りざたされているCSR活動とはどういったものなのか、なぜ企業はCSR活動に注目しているのか、そして、その一歩を踏み出すために何を始めれば良いのか……。 「企業の環境活動・CSR」に関するさまざまな疑問について、環境経営のエキスパートである吉岡庸光教授に話を伺った。

はじめに、環境問題をはじめとするCSR活動に企業が注目している理由を教えてください。

吉岡/わかりやすく言うと、資源を一番たくさん使っているのが企業であり、環境汚染に対して未然に防げる立場にいるのも企業だからです。よく使われるテクノロジーパラドクスという言葉がありますが、今までわれわれが豊かになるために、企業はさまざまな化学物質や資源を使ってきた。その結果、これだけ環境がおかしくなってしまった。しかし、企業は豊かになるために使ってきたその技術を、環境問題を解決するために転化させる能力を持っているわけです。また、環境問題を解決するために必要不可欠な人材や資金を持っているのも企業なんですよね。

中小企業の環境活動・CSRの取り組みは、どこから始めれば良いのでしょうか?

吉岡/大々的にCSR活動に取り組んでいるのは、資金も能力もある大企業が多い。ただ、日本の企業は、数の上では90%以上、比較的環境への配慮余力の少ない中小企業です。その数が多いということは、環境負荷も大きいということなので、むしろ中小企業の方が積極的にCSR活動を進めていってほしいと思います。よく「何からやればいいかわからない」という声を聞きますが、ISO14001(※3)のような大掛かりなマネジメントシステムを作らなくても、日常の生活、企業活動のなかで取り組めることはたくさんあります。例えば、10人くらいの企業でも日々の活動の中で、ゴミはでるし、電気は使っているし、水も使っているじゃないか、と。その中から最初はひとつでも良いので、「できること」に着目してみてください。

簡単にできる部分から始めてみるということですね。

吉岡/そうです。「CSR」という言葉はくくりが広いので、まずはわかりやすいところから始めてみることです。中小企業に関しては、環境をコストダウンの面からとらえるのが一番わかりやすいのではないでしょうか。この不況期だからこそ、無理、無駄、ムラをなくしたいというのはどの企業でも考えているはずですよね。企業活動は資源を使っているわけですから、資源を使えば使うほど地球が汚染される。環境に取り組むということは、その資源の使い方を工夫するということです。結果として、その工夫が環境の改善と企業のコスト削減につながるはずですね。
あまり大げさに構えないで「ちょっと環境の面も見てみようか」という気持ちからスタートして、社員に意識を投げかけてみる。その中で「電気や水を節約しよう」となったのなら、パソコンなんかに打ち込まなくても、紙などに書いて「今月はいくらだったのか」「これはどう減らそうか」と試行錯誤してみる。これだけで全然違うと思います。中小企業だからこそ、やり方があきらかに間違っていなければ、経済効果としてもすぐに結果が出てくるはずですよ。こういう小さな活動から続けていくことで、自分たちが寄って立つ社会の中での役割、社会の中で自分たちの会社が果たしていくべき責任、つまり「自社にとってのCSRとは何なのか?」がわかってくると思います。

よく企業内環境教育という言葉を耳にしますが、どのようなメリットがあるのでしょうか?

吉岡/企業内環境教育は、個人的には、企業の環境活動・CSR活動において一番大切なことだと考えています。社員一人ひとりが環境に対する意識をしっかり持たなければ、その活動はうわべだけのものになり、本当の意味で教育が達成されたとは言いにくいでしょう。環境について社員に上手に伝えるために、まず「現状ではもうダメだ」という意識を持ってもらうことだと思います。このままでは企業の存続はもとより、この地球で生きていけなくなる、住めなくなってしまうということを浸透させることが重要です。そうやって社員の環境意識を高めていけば、社員が家に帰った時に家族間で環境について話し合う機会が増えるだろうし、さらにその奥さんや子どもたちが普段の生活のなかで環境について考えるようになる。企業内環境教育をすることで、環境に対する意識が社員以外の人たちにも伝染し、広まっていく。そういった意味でも企業内環境教育は非常に重要なことだと思います。

ステークホルダーとのコミュニケーションツールである、CSR報告書や環境報告書(※4)については、どのように取り組んでいけば良いのでしょうか?

吉岡/CSRの考え方のひとつに「企業の経済活動には、ステークホルダーに対しての説明責任がある」というものがあります。環境報告書やCSR報告書は、その説明責任を果たすためのツールです。日本の報告書に関しては、環境省のガイドラインやGRI(※5)をもとに作られるのが一般的です。大企業だけでなく、中小企業でも、社内でCSRグループを作り、まずは数ページくらいの簡単なものから制作してみてはいかがでしょうか。CSR活動によって得られた数値や量などをデータとして打ち出し、その結果を「見える化」することは、消費者や投資家、取引先への説明だけでなく、社員の意識を向上させる上でとても効果的だと思います。

環境報告書やCSR報告書を制作するにあたっての注意点はありますか?

吉岡/まず第一に、企業側の考えを中心とした一方的な内容にし過ぎないことです。解決策としては、外部のNPO団体の人たちを制作メンバーに入れるとか、反企業環境活動家を制作スタッフに入れるなどして、第三者的な意見をふんだんに記載してあると良いと思います。つまり、企業活動の良いことも悪いこともしっかりとさらけ出すことですね。
第二に、その報告書のオーディエンス(聞き手)、つまり、「誰に対して書いてるのか?」を明確にすることです。株主や取引先が大切なのはわかりますが、実際、企業活動において影響力の高いステークホルダーというのは、製品を購入する消費者だったり、働いている従業員です。株主や取引先だけでなく、すべてのステークホルダーに対して均等な立場で環境報告書やCSR報告書を制作してほしいですね。ひとつ例を上げると、日本の環境報告書とヨーロッパの環境報告書では、冒頭に記載される、企業のトップの出だしの言葉から違います。日本では「我が社は〜」で始まるものが多いですが、ヨーロッパでは「あなたの会社は〜」から始まる。つまり、ヨーロッパの環境報告書は広く消費者や従業員のことを意識して作られていることがわかります。

最後に、吉岡教授が理想とする未来像について教えてください。

吉岡/企業間の競争力拡大というのはすでに限界にきていて、資源の制約というのも見えてきています。私が理想とするのは、身の丈にあった社会経済フロー活動で、地球環境全体のバランスを取っていくということです。中国やインドなど、BRICs(※6)と呼ばれる国がこれからどんどん成長していきますが、それもどこかで限界がきます。われわれ先進国は、このことを先に意識して、物質追求型から資源依存度の低い精神追求型の社会へと切り替えていく。そして、精神追求型社会のモデルを他国に示していくことが必要です。そのために、わざわざ地下から化石資源を引っ張り出すのではなく、地上にふんだんにある自然のエネルギーを最大限に活用する。自然エネルギーに関しては、例えば工場で使うのではなく、身の回りの生活に必要なものだけをまかなうといった、まずはそういう意識レベルになっていけば良いと思います。いままで人類が勝ち得てきた文明を大事にしながら、地球とも共存し、精神と物資のバランスが取れる安定点を模索していく。CSRという考え方を通して、「自分たちの意識を変えれば、地球も日本も生活環境も良くなるのだ」と想像できる人が増えていけば良いですね。

聞き手・文 野寄晴義

吉岡庸光(よしおかのぶあき)
静岡産業大学経営学部教授 【担当科目】環境マネジメント論、環境経済学、環境経営論、 環境政策論、環境管理特論など 1976年/ニューヨーク大学経営大学院修了(ニューヨーク大学MBA取得) 1994年/環境コンサルタント会社「株式会社YBAインターナショナル」設立代表取締役 1995年/英国環境技術センター在日アドバイザー 1996年/環境審査員(補)資格登録 2001年/静岡産業大学経営学部教授 2007年/環境管理士(1級)資格登録 【活動】静岡県環境ビジネス協議会会員、静岡県地域づくりアドバイザー(環境分野)、 静岡県環境ビジネス協議会紙リサイクル研究会座長、 天竜流域林業活性化協議会委員

コンプライアンス(※1)
一般的に「法令遵守」と訳される。日本では、企業理念や社会道徳なども含めて、論議される事が多い。

ステークホルダー(※2)

株主、、従業員、顧客、地域社会、その住民など、企業及び企業活動に何らかの影響を与えたり、受けたりするものをいう

ISO14001(※3)

環境マネジメントシステムの代表的な国際規格。、自ら環境改善のための計画を立て(Plan)、実施し(Do)、達成を点検する(Check)ことにより、環境負荷への改善を図っていく(Act)ことが求められるシステム。

環境報告書(※4)

2005年の「環境にやさしい企業調査(環境省)」では、上場企業及び、従業員500人以上の非 上場企業の34.7%が作成していると報告している。
CSR報告書も含め、ステークホルダーへの情報提供の媒体として重要視されている。

GRI(Global Reporting Initiative)(※5)

セリーズ原則(企業の環境責任10原則)を策定した米国のNGOであるCERESや国連環境計画(UNEP)が中心となって設立した団体。全世界で通じる持続可能性報告書のガイドラインを作成している。

BRICs(※6)

経済発展が著しいブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国 (China)の頭文字を合わせた4ヶ国の総称。CO2排出など、環境問題においてもその動向が注目される。

エコアクション21
環境省が中小企業、学校、公共機関などを対象に策定した認証、登録制度。環境経営システムと環境への取り組み、環境報告の3要素が1つに統合されているので、環境への取り組みを行ううえで効果的・効率的に行えるシステム。
持続可能な社会将来にわたって環境問題の他、経済や社会の総合的な発展がバランスよく保たれた社会。国連の「ブルントラント委員会」がその最終報告書で示した「将来の世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような開発」を具現化した社会。