逆転の可能性。厄介者が新産業創成の救世主へ。

気が弱くて、何をやってもうまくいかず、みんなに邪魔者扱いされていたサラリーマンが、あるとき偉大な力を手に入れ、地球の危機を救うヒーローとなる。そんな映画のような出来事が私たちの身近なところで起きていることをご存知だろうか。
地球は、温暖化に伴う環境不安にさらされ、早急な対応が求められている。その救世主のひとつとして「バイオマス( 生物)」の秘められた能力に注目が集まっている。これまでほとんど評価されてこなかったどころか、逆に邪魔者扱いされている陸圏、水圏のバイオマス。特に海洋国家である日本では、今まで検討課題にもならなかった水圏バイオマスを利用した新しい産業の創成に大きな期待が寄せられている。
いまだ未知未踏の分野に「光技術」という武器を駆使して挑戦を続ける鈴木鐵也氏にその可能性を聞いた。

="「クズ」と呼ばれた昆布がいまや100キロ・1億円という産業を牽引"

="まず、光技術のバイオマスへの応用とはどんなものなのでしょうか?"/

世の中には役に立たないもの、つまり、「廃棄物」と称されるものがあります。しかし、特にバイオマス系の廃棄物(木竹類、家畜糞尿、汚泥など)に関しては、見方を180度変えれば、すべて有用資源になる可能性があると、私は考えています。そういった廃棄物を光技術を用いて有用資源に変換し、新たな産業を切り開いていくこと。光の能力と生物が持っている能力を“お貸しいただいて”、私たちに何ができるかを追求することが、光技術のバイオマスへの応用だと思います。

="現在取り組んでいる事例を教えてください。"/

5年ほど前から取り組んでいるのが、浜名湖で異常発生しているアオサです。アオサは海藻の一種なのですが、外来種の侵入や浜名湖の水質変化などにより、毎年5〜7月にかけて2000〜4000トンというとてつもない量が発生するようになり、問題になっています。水中で腐って水質汚染が危惧されたり、30 ???ほどのマット状の層になって船の侵入ができないなど、水産業への被害も深刻です。
しかし、私たちはこの“厄介者”を取り除くのではなく、その可能性、つまり、重要な資源に変換できうるのではないかと考えています。具体的には、アオサには他の海藻と同じようにビタミンやミネラルなどの栄養素がバランスよく含まれているので、光技術を使ってその栄養素を抽出したり、コンポスト(堆肥)としての利用も可能です。また、アオサを含めた水生藻類というのは、陸上植物よりも炭酸ガスを吸収する能力が倍すぐれているので、地球温暖化対策に役立てる方法はないか、といったことも模索しているところです。

="浜名湖のアオサの可能性を探る中で、興味深い例として、北海道の「がごめ昆布」がありますね。"/

「がごめ」は、北海道の南部に分布する昆布の一種で、ほかの昆布よりも粘りが強いのが特徴です。実はこのがごめも、その昔はアオサと同じ“厄介者”のレッテルを貼られていました。現地では「クズ昆布」と呼ばれていたほど、まったく商品にならない昆布だったんです。それが、近年、いろいろと研究を進めていく内に、メタボ防止や高血圧予防、さらには抗がん作用まで確認され、一躍全国から注目を集めるようになりました。今ではなんと100 kg・1億円という値で取り引きされているんですよ。石鹸から、飲料水、ラーメン、化粧品などなど、さまざまな加工品としても売り出されています。
このような状況の中で、がごめが品薄状態になってしまったという相談を受け、われわれの光技術を使ってがごめの成長スピードを促進するシステムを構築し、現地の漁師の方々、研究施設の方々に大変
喜ばれました。現在では、そのシステムを日高昆布などほかの昆布にも応用できないか、という相談も受けています。

今後バイオマスに期待される役割はどういったものがあるのでしょうか?

ひとつは、第一次産業との融合です。個人的に今の日本に一番必要なのは、第一次産業の再活性化だと思っています。現在、日本の農業や水産業が疲弊し、林業は特に深刻な状態になっていますよね。だからこそこれからは、補助金頼みになるのではなく、地域の人たちが自分たちの手で新たな第一次産業のシステムやモデルを作っていくことが重要です。そして、そのシステムやモデルを構築する中で、バイオマスの能力を上手に活用、融合していく。つまり、不足している資源の補填や環境汚染問題解決の糸口として、バイオマスの可能性に着目するということです。
もうひとつは、がごめの例に代表されるような、新しい産業の創成です。これまでほとんど研究や評価がなされてこなかったバイオマスの分野は、言い方を変えれば、無限の可能性を秘めている分野と言
えます。当然、そこにはビジネスチャンスというのも数多く存在しています。生物の能力が生み出す可能性に光技術を組み合わせた「光バイオ」という分野から、数多くの新しい産業が創成されることを期
待しています。

すずき てつや:光産業創成大学院大学 光バイオ分野 教授

【経歴】京都大学農学博士 農林水産省農林水産技術会議政策評価委員会委員/1995年 北海道大学大学院水産科学研究科・教授/2004年 豪州クイーンズランド大学健康科学部名誉教授、 国立衛生化学研究センター研究員/2005年 光産業創成大学院大学・教授 
http://www.gpi.ac.jp/bunya/bio/