
看護学校時代、病院実習で退院後のがん患者さんからお話を聞く機会があったのですが、抗がん剤治療の副作用である脱毛に関してフォローを行ってくれる場所がなく、お困りの方が多かったのです。それは、単純にカツラがあればよい、ということではなく、メンタル面での支えや金額の事でした。がんの治療費は高額です。そのうえ大手メーカーのかつら、とまでなると金銭的に家族の負担は大きいわけですが、それが当たり前になっていました。
現在日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなります。その数字だけみると恐ろしいですが、ここ数年治療が格段に進歩し、がんは治療しながら社会生活を続けていくことのできる慢性疾患となっています。身体は治せるようになった、では患者の心や社会生活を支える仕組みはどうかというと、先述の通り、追いついていません。病気になったらまずは命を助けることが一番になる。それは当然ですが、病気の前に、その人なりの社会性や人生があると思うのです。私は〝看護〟というのは、「治療により困難になった日常生活」をその人らしい方法で再開するためのプロ支援を行うことだと思っています。ですから、髪が抜けてつらくなっているならカツラがあれば少し解決する。それによるメンタル面のケアから金銭的なことまでの問題解決も看護ケアのひとつだと思いピアを立ち上げました。
設立時の資金面やそれからの販路開拓については、一般の会社を起業することと変わらないと思います。ただ、今までに概念としてないものを作るので、何をやっているのか理解されにくいです。起業当初の5年前はソーシャルビジネスという概念自体があまり周知されていなかったので、余計に周囲への説明が困難でした。既存の事業枠組の中で「アレと同じ」とカテゴライズされてしまいがちで、一般企業の事業と同じくくりにされると、少しずれてしまうという概念的な難しさは当時も今も変わりません。
私達は医療サイドからではなく、一般の地域社会サイドからの視点で解決法を出しています。たとえば脱毛についてのことも、医師、看護師、ソーシャルワーカーの方々は医療チーム側からの提案はできるのですが、「髪のことなら髪のことだけ」になってしまいがちです。しかしかつらを渡せばそこで終わりではありません。本当に必要なものは、かつらを必要になっているその状況を解決することですから、ただのかつら屋さんではなく、〝具体的解決策を出す専門美容室〟という少々わかりにくいスタイルをとっています。
概念はわかりにくいですが、収益モデルはシンプルです。かつらを作成し、美容室事業で収益をあげて、その売上でお店を経営しています。最初から事業として回すことで、プロのサービスを安定して継続的に提供できる会社にしたかったのです。
本来企業は本業を通して社会貢献をしていくべきだと考えています。CSRも本業を通してするものと、本業で得た利益を他に還元するというやり方がありますが、ピアは後者のやり方はできないです。利益を追求するような儲かる企業ではないので、かわりに徹底的に本業で地域コミュニティの日々の質向上に貢献できたら、と考えています。
他の社会起業家として頑張っている方々はどこに向かってどう貢献するか、何を解決したいのかということがクリアです。だからぶれないで解決に向かって突き進めるし、企業としても強いと思います。これからも増えていくと思います。
浜松を中心としたこの地域は、高度成長期の頃から、経済面では典型的ピラミッド構造の中でそれなりに雇用が確保されて仕事が回っていて、行政においては安定した税収や交付金などを消化するだけでよかったせいか、なかなか以前の考え方から抜け出すことが出来ていません。全てではありませんが、行政も形ばかりの仕組みづくりしかしていない。行政には、NPOや我々のような法人はボランティアではなく一般企業と同じだと考えて欲しいと思っています。そのために社会的企業やNPO法人も市場で競争力のあるサービスや商品をもつ必要があります。いいことをしている、の独善的な姿勢は私達自身の質を落としてしまいます。
一方、行政や既存の民間企業も、いったい誰のための事業なのかをもう一度立ち戻って考えてみて欲しいです。それぞれにやれること、強い分野があるのですから、お互いにもっと協議・協働して、住みやすい地域づくりを進めることが重要かと思います。
社会起業家になることは決して特別なことではなく、誰にでもできることだと思います。〝ニーズ〟に出会い、それを〝ビジネス〟で解決できると感じるかどうか、そして感じたときにあきらめないで解決方法を探し、ビジネスを起こすかどうか、その2点だと思います。今では社会がソーシャルビジネスに理解を示し、力をかしてくれるようになってきましたし、これから社会起業する人にとっては追い風だと思います。
まずは起業しなくても、今の仕事の中で社会のために何が出来るかを考え、自分が出来ることから始めるのが大切です。そうすれば確実に自分も周りも変わっていきます。〝理解〟では人は動きませんが、〝共感〟した人は何か行動を起こしてくれるかもしれない。私の場合も一人ではできないからこそ、共感してくれた人と一緒に事業を膨らませ、私「個人」から「社会的企業のピア」にシフトしています。それが課題解決へのいちばんの近道だと考えています。

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専門美容室「ヘアサプライピア」は人毛100%かつらをカット込み5万円で制作販売。かつらを作る際や困ったときなどいつでも無料で相談できる場所作りをボランティアではなく事業として行っている。また、同じような境遇のお客様同士が気軽に話ができる場「茶話会」の定期的開催、ピア通信(ニュースレター)発行、ブログなど情報発信も。医療サイドとは違う視点での生活レベルのケア提供を通じ、「病気になっても安心して暮らせる地域を、まずは静岡県浜松市近郊から」をテーマに活動。2009年には経済産業省ソーシャルビジネス先行事例55選に選ばれている。
浜松市浜北区染地台1丁目43-41
予約電話:053-585-0054
営業時間:10時~17時(最終予約:カット15時、相談16時)
定休日:毎週土曜日・各種日曜日(第1・3・5日曜日)
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